LOGINただし、脂が非常に多いため、串焼きにすると脂が滴り落ちて炎上し、肉が焦げてしまう。そらは焼ける脂の音を聞きながら、ふと考える。
(これならフライパンで脂肪を煮出してラードが作れるかもな……でもラードって何に使うんだ? 料理は詳しくないから分からないけど……ラーメンとか? ラーメンなんて売ってないしなぁ……作り方も知らないし。野菜の炒めものとか炒飯とかか……あと、明かりを灯すのに使えるかも。でも、煙や臭いが気になるって聞いたことがあるな。ステフに任せちゃおっと)
そらは美味しそうな脂を見つめながら、未知の調味料の活用法について頭を悩ませた。
肉を焼いていると、香ばしい匂いに誘われるように、皆が次々とベッドから起きてきた。そらは人数分イノシシの肉を丁寧に焼き、朝食として提供する。
朝から湯気が立つ脂っこい肉を、皆が美味しそうに頬張る光景にそらは内心驚きつつ、自分も香りに耐えきれず手を伸ばして口にする。その濃厚な旨味に、満足げに頷いた。
「今日もギルドに行って依頼を見て決めようか?」
そらが提案すると、女の子たちは元気よく声を揃える。その声には冒険への期待が満ちていた。
「はーい」
いつものメンバーでギルドに向かい、到着すると、受付嬢が慌てた様子でカウンターから駆け寄ってきた。その顔には焦りと安堵が入り混じっていた。
「あ! そらさん! 良い所に来て頂きました! あの……緊急依頼をお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか!」
そらは突然の申し出に少し戸惑いつつ確認する。
「は、はい。大丈夫ですけど、えっと……どんな依頼でしょう? ボク達に出来る事なら良いですけど」
受付嬢は熱心に手を組みながら、そらに縋るように話を続ける。
「ゴブリンキラーで有名なパーティですから、大丈夫です」
驚いたそらは思わず声を上げる。
「はい!? いつからゴブリンキラーで有名になってるんですか! 60体
(信用できる人たちなの?) そらは、ノアの小さな頭を優しく撫でながら、改めて心の中で問いかけた。(はい。なの。私をかばってくれて捕まってるの。) ノアは、そらの胸に顔を押し付けたまま、涙声になりそうなのを必死に堪えながら答えた。その声には、家臣たちへの強い信頼と、申し訳なさ、そして現状に対する激しい怒りが込められていた。(じゃあ今日、全部終わらせようか? 見てられないし、時間をかけても結果は同じだし……。) そらの思考は迅速だった。このまま放置して家臣たちの苦難を長引かせる必要はない。すぐにでもノアの領地を取り戻し、彼女を正当な領主の座に戻すべきだと判断した。(お願いなの。) ノアは、そらの服をぎゅっと握りしめ、切実な願いを伝えた。(ノアはここにいてね。ここは、安全な場所だよ。) そらは、不可視化の魔法を維持したまま、ノアの体をそっと壁際に寄りかからせる。(はい。なの。) ノアは、家臣たちの方を見つめながら、固く頷いた。そらは、ノアに背を向け、冷たい鉄格子の前に静かに立ち、これから起こす行動のために精神を集中させた。部屋の隅で怠惰に警備にあたっている兵士たちに、そらの冷たい視線が向けられた。 領主邸の一室、大きな会議室には20人ほどの男女が集まり、口々に意見を述べ、熱のこもった話し合いをしていた。その内容は、先ほどの領主の執務室で聞かれたものとほぼ同じ――「誰が昇格するか」、「どの程度の報酬が妥当か」、といった権力と利権を巡る、醜いものだった。人々の欲望と野心が渦巻く、淀んだ空気が室内に充満していた。 不可視化状態で室内の様子を観察していたそらは、その卑しいやり取りに静かにうんざりした。(うん、こいつらも必要ないな。) そらの心の中で下された決定は迅速だった。もはやここに残しておく価値はない。 竜の谷行き決定だな! そらはためらうことなく、会議室にいる全員を転移魔法で一斉に送った。一瞬にして会議室は静寂に包まれた。(ドラキン、追加で20人送ったからね
領主の執務室に行くと、重厚な木の扉の前には領主兵が二人、無言で剣を携え、厳重な警護についていた。彼らの硬い表情は、室内の秘密を守るという意思を示していた。 転移で部屋の中に侵入し、彼らを観察をしていた。 豪奢な調度品が並ぶ執務室の中、重厚な木の机の奥にある領主の椅子には、脂ぎった顔つきで、見るからに性格の悪そうな男が不遜な態度でふんぞり返って座っていた。その両脇には、着飾った側仕えらしき二人の女性が侍り、男は厭らしい笑みを浮かべながら、彼女たちの体を触り、イチャついていた。タバコのような煙草の匂いと、安っぽい香水の匂いが室内に充満している。 ノアはその光景を目撃し、そらの首にしがみついたまま、ムッとした表情で男を強く睨んでいた。その小さな体からは、弟を軟禁し、領地を奪った男に対する激しい怒りと嫌悪が、微かにそらに伝わってきた。 その男の前には、五人の男たちが床に跪いていた。彼らの顔は青ざめており、領主の男の機嫌を窺うように、一切の動きを見せずに沈黙を守っていた。彼らもまた、この男の横暴な支配下にある現状に不満を抱えているようだったが、何も言えずに耐えている。 (あの男が、ノアの領主権を奪ったヤツか。見るからにロクなモンじゃないな) そらは、ノアの感情を感じ取りながら、冷静に状況を分析した。この男が、ノアの領地と弟の自由を奪っている元凶であることは明白だった。 激しく怒鳴りつける声が部屋に響く。「まだ小娘は見つからないのか!!」「消息も足取りも不明です。安否も確認できておりません。」「何も知らん小娘の一人も探せんのか! 何を遊んでいるんだ!! 使えん奴らだな!」 領主は言葉と共に、脂の乗った肉付きの良い手を机に叩きつけた。分厚い木製の机がガタリと音を立て、その衝撃で彼のグラスの中の酒がわずかに揺れた。側仕えの女性たちはびくりと肩を震わせ、顔色を窺う。「領内から出ることはできないはずなので、領内にはいると思われます。近隣の町や村へ幼い少女が辿り着くのは困難で、不可能かと……。」 跪く男たちは、恐れで顔を一層青ざめさせながら、震える
そらはベッドに座らせられると、ティナは気恥ずかしさを隠しきれない様子で部屋の隅で着替え始めた。「こっちを見ないでくださいね」 恥ずかしそうに顔を赤くさせ、それでも決意を込めた、少し強い口調で言ってきた。「あ、はい……」 そらは素直に返事をした。もちろんチラッとでも見たら怒られるだろうし、二度とこんな機会を与えてもらえなくなるので、ここは大人しくしておこうかなと決意した。壁の木目を熱心に観察するフリをした。 しばらくファッションショーに付き合ったが、次はパジャマも試してみるのだろうか? そっちの方が普段見れない姿だから楽しみなんだけどなーとか考えていた。 その時、コンコンと控えめなノックの音が聞こえた。ティナが警戒しつつもドアを開けると、眠りから覚めたばかりのフィオが目をキラキラさせながら走ってきて、一目散にそらの膝の上に座り、抱きついて甘えてきた。「わたしも、そらと、いっしょにいるぅ」「うん。良いよ。」 そらは優しく言いながら、フィオの柔らかな髪を愛おしむように撫でた。フィオはニコニコしながら、さらにそらに体を擦り付けて甘えてくる。その様子が可愛くて、そらは思わず微笑んでしまった。 フィオとそらのやり取りを見ていたティナは、一瞬だけ、少し残念そうな顔をしていた。その表情はすぐに消えたが、そらは見逃さなかった。 ティナのプライベートファッションショーは華やかなドレスが終わり、次にリラックスできる部屋着やパジャマへと続いていった。ティナが鏡の前で一生懸命服を試着している間、そらの膝の上にいるフィオは安心しきった可愛い寝顔ですっかり眠ってしまっていた。「私に、こんなに服があるなんて初めてですよ! 移動が大変になるし、お金もなかったので、すごく嬉しいです……本当に、ありがとうございます」 ティナは新しい服に囲まれ、心からの喜びを込めて言い、少し照れくさそうに笑った。その笑顔はとても優しかった。 ちょうどそのタイミングで、ステフがドアの外から「お昼ご飯の準備ができましたよ」と穏やかな声で呼びに
「正式にパーティに参加してもらえることになったんですよ」 そらが嬉しそうに報告すると、ギルマスは目を見開いて喜びを表した。「ティナがパーティに参加か、珍しいな! それは良かった。心配してたんだぞ! 毎回ヘルプで入っていたしな。これで安心だな!」「……はい」 自分の加入を心から喜んでくれるギルマスの言葉に、ティナが頬をほんのり赤くしていた。照れてるのかな? そらはその可愛らしい反応を見て微笑んだ。「報酬の件だが、支払いは大金貨と金貨になる。問題はないか?」 ギルマスは目の前の机に分厚い帳簿を広げながら、金額の大きさを確認するように尋ねてきた。「はい、大丈夫ですよ」 そらは特に動じることなく、軽く頷いた。「え?! そんな大金貨!? え、大金ですね……」 ティナはその金額に驚き、声をひそめて息を呑んだ。「まあ当然の報酬だ。討伐数の桁が違うからな。後日に領主様と国王様からも報酬が出るからな! 両方からの依頼が来ていた案件だからな」 ギルマスは誇らしげに胸を張り、その依頼の重大さを説明した。 お金には困っていないけれど、貰えるものはしっかり貰っておこう! 正当な報酬だし、遠慮することもない。そらは目の前の大金に冷静な態度を崩さなかった。 最近、お金が減らない! 文字通り、いくら使ってもマックス表示から変わらない感じだ。マックス以上の記録もされているっぽいから、何か裏で増えているのかもしれない。 お金を使うことがほとんどないし、服は魔法で出したり、食事もイノシシの肉を食べているから、必要なのは野菜くらい。だから、この後はティナの服を買ってあげようかなと思っている。 ギルマスからずっしりと重い大金貨と金貨が入った革袋を受け取り、改めて挨拶をしてギルドを出た。「この後、服を見に行こうか?」 そらがさりげなく提案すると、ティナは少し不思議そうな顔をした。「良いけど、そらさんの服?」「うん」 目
翌朝―― 息苦しさでそらは目が覚めた。何かが顔の上に乗っているような……。状況を把握しようと、退けようと手を伸ばすと、柔らかく弾力のある感触が手のひらに広がった。『ぷにゅっ♡ ぷにゅっ♡』(これは……この感触は。ああ、すぐに分かった。これは……ティナの胸だ) そらは昨夜、彼女が自分の腕の中で眠りについたのを思い出した。 けどまあ……せっかくなので、もう少しこのまま目を閉じていようっと。うん、朝から幸せだ。そらは至福の瞬間を味わいながら、微睡(まどろみ)の中に身を委ねかけた。 ……いやいや、そろそろやめておかないと、悲鳴でも上げられたら困る。そらは理性が働くのを感じ、ゆっくりと瞼を開けた。 そらがゆっくり目を開けると、視界に飛び込んできたのは、ティナをしっかりと抱きしめ、その柔らかな胸に手を添えているという、完璧で言い訳不能な構図だった。ティナはまだスヤスヤと眠っている。 そしてその光景を、ベッドの端からエルとブロッサムがジト目で、冷たい視線を送っていた。二人の瞳には呆れと怒りが混じっている。(……スミマセン。これは……事故、偶然の事故なんです) そらは心の中で平謝りし、そっとティナから手を離した。 ステフが台所で朝食の準備をしてくれている間、そらは居心地の悪さから逃れるように食材の保管庫を確認しつつ、在庫の補充をすることにした。昨日仕留めたイノシシの魔獣を魔法で解体し、部位ごとに肉を整えて並べておく。 野菜や果物は大量に買っておいたから、しばらくは問題なさそうだ。塩や砂糖も魔法でまとめて生成してあるので、当分の備蓄は心配いらない。生活の基盤はしっかりしている。 さて、今日はどうするかな。皆のスキルアップでもやるか。ティナも来てくれたし、せっかくだから先生として手伝ってもらおう。そらは今日一日の計画を立て始めた。 あ、その前に…&hel
「あー、まぁ……そんなところかな」 そらが曖昧に頷くと、ティナは興奮を隠せない様子で言った。「すごい、幸運だったんですねっ! それって、国宝級かも。一生遊んで暮らせるレベルですよ!」 目をキラキラさせながら、ティナがじっとそらを見つめてくる。「へぇ〜、そんなにすごいんだ?」「うん、防具や武器はもちろん、実用品や美術品にも使われるの。でも、すっごく希少で、滅多に市場には出ないからね」「そうなんだ? でも、ドラゴンってその辺にいっぱいいるのに?」 そらが無邪気に問い返すと、ティナは心底驚いた顔で否定した。「いやいや、ドラゴンはその辺に“いる”って言われても、あれ不死の存在だよ? 討伐なんて無理だよ」「そ、そうなの? へぇ……ドラゴンって、倒せないんだ……」 そらは自分の過去の行為を思い返し、内心で冷や汗をかいた。 ――あれ? 俺、普通に倒しちゃったけど? え、やばいのかなこれ……とりあえず黙っておこう。 そらは何食わぬ顔でいることを決意した。「ドラゴンってね、生きてる間は全身に魔力が流れてるから、剣や槍の物理攻撃は効かないし、魔法もはじいちゃうの。魔獣や魔物も、ドラゴンには近寄らないくらい怖がってるんだよ」 ティナの説明を聞きながら、そらは自分の経験を思い返した。 あー、それ知ってる。狩りに連れて行くと、ドラゴンのオーラやドラゴンの威圧だかで獲物が逃げちゃうんだよな……正直ちょっと邪魔だった。「そうなんだ……」「昔ね、他国の軍が村を襲ったドラゴンを討伐しに行ったんだけど、逆にその国が滅んだって話もあるくらい。だから、さっきびっくりしたの。あのドラゴン、一体何者なの?」「えっとね、確か……竜の谷の最古のドラゴンの王って言ってたかな?」「&hellip